草津温泉

草津温泉に行った。
ネットで探して予約した旅館には一癖ある主人がいた。宗教家のような雰囲気で諭すような話し方をする。
草津の湯は強酸性なので石鹸使用は禁止、三つある湯船の最初の熱いものは、時間湯という草津独特な入浴法を習得していないと危険なため、主人の指導なしには使用禁止等、張り紙も多い。
金曜夜の客は自分たち一組だけ、夫婦二人で切り盛りしていたようだ。個性的な主人と対照的に女将は当たりの良い常識人で、やはりと思わせる。
お湯は老舗の権利とかで湯畑からポンプで運び上げているそうで、確かに素晴らしい。一方、部屋や廊下が暗くじめじめしていてどうにも気が沈む。夜は中学生の娘がロビーでテレビを見ていた。
連泊するのも芸がないと思い、翌日はリスト片手に色々な旅館の外観を見て歩いた。部屋数が少なく料金の高いいかにも良さそうなところは旅行前にネットで調べて満室だったが、駄目元で電話してみるとちょうどキャンセルが出たという。試みに泊まってみることにした。
料理が自慢らしい。幅広インゲン、花豆、鮎など食材自体は前日の旅館と同じようなものだが、手の掛かり方は違う。そしてもうひとつの売りである温泉も、湯畑から引くものと、まさにその場で沸くものとの二種類が楽しめる。部屋は同じ間取りだが、明るく風通しが良い。夜、窓を開けていると、宴会の騒ぎ声遠くから聞こえたり、通りを行く下駄の音が高く響いたりと、いかにも温泉街らしい旅情が楽しめた。
ただ結局、料金の違いが一番表われたのは従業員の数だったかも知れない。旅館の収容人数はそれほど変わらないだろうが、従業員が20人はいる感じだ。
二つの旅館には様々な差があるものの、温泉自体、また温泉浴文化を大切にし、誇らしく思っていることについては甲乙つけがたいと感じた。更には内湯巡りや無料の外湯、歴代湯長の慰霊碑や伝説的な旅館跡の記念碑など、町全体に、儲け主義とは異なるの純粋な気持ちが確かに感じられる。その清々しい気持ちに触れられたことは今回の草津行で一番の収穫だったと思う。