五十番

王貞治の両親が開いていた中華料理屋の元従業員が場所を変えて屋号を受け継いで営んでいる店。同じ押上にある。王選手(監督よりこの方がしっくりくる)といえば、昨年の胃ガン手術後の退院会見で「早く元気になってラーメンが食べたい」と語り、世のラーメン好きのハートをがっしり掴んだのも記憶に新しい。王選手が確か中学時代に練習の後、家に戻ると食べていたのは肉そばだったそうだ。
その肉そばを注文する。
肉が心持ち多いタンメン?が出て来た。大きく切ったキャベツ、小さめに切ったピーマン、3〜4mm角で長さ5〜6cmにきれいに切り揃えたニンジンとタケノコ。そしてタマネギ、モヤシ。豚肉は5mm角長さ4〜5cmと可愛いらしい。野菜への火の入れ方は絶妙。麺は淡泊で味気ないが、それより団子状態で茹でられているのが残念。スープは野菜だろうか、とても甘くそして濃厚。腰の曲がった老主人がゆっくりと丼を運んで来た時、テーブルに胡椒の瓶が一緒に置かれたのも頷ける。今はないピカ一@駿河台下を思い出してしまう。また、味の横綱向島のタンメンと同じく胡麻油がアクセントに入っているのも特徴的。野球の練習後に肉そばと聞いてあまり体に良さそうとは思えなかったが、この肉そばだったら毎日食べてもOKだろう。
白い丼は内側縁の近くに120°の開きで五、十、番と黒くしっかりした楷書が一文字ずつ入っているのみ。外側も真っ白、かと思うと高台の部分には朱が入っていて何ともおしゃれだ。クラシカルなこの丼の佇まいもまた好ましい。
外に出ると店の前で80半ば過ぎという店主が自転車でコケていた。駆け寄る近所の人にハトを除けようとして転んだんだよと快活に言い訳している。いつまでも健康で半世紀前に王少年が食べた味を長く伝え続けて欲しいものだ。