映画「鈴木先生」

13年1月に公開された、ドラマ鈴木先生の続編映画。
生徒会選挙と立て籠り事件という原作にある別のエピソードを「グレーゾーン」で関連付けて描いている。
映画のクライマックスで小川が行うジャンプをどうみるかが難しい。あり得ない程の距離のジャンプを成功させるのだが、どういう意図で観せようとしているのかがわからない。劇場で4回観て、一度だけ観客が笑い声を上げるのに遭遇した。
ドラマ版では超常的な能力を持った麻美の力の象徴として、虹色の光が繰り返し使われていた。この虹をこの場面でも採用してくれたら、すんなりと納得できたと思う。

映画はドラマに続く11話という設定ではあるが、映画ならではの表現が照明と音響について感じられた。
ドラマで小川ライトといわれていた照明の当て方が、小川だけに留まらず盛り盛り。窓際の生徒や先生は皆光に包まれて、背景は白く飛んでいる。一方で暗い部分はかなり暗く、全体にドラマよりも更に劇的な絵作りとなっている。
また、音は低音まで高いレベルで入り、ドラマでお馴染みの音楽がより胸に迫る。なお、2枚の特典ディスクの内、1枚はサウンドトラックのCDとなっている。アコースティックピアノのペダルの動作音が聞き取れるほど丁寧に作られている。
多くの観客と観る劇場ならではの面白さとして、体育館での演説シーンのざわめきと、それに続く静寂が疑似体験できるというのがあった。これはどんなによく調整されたAV専用室でも無理な経験だろう。

見所を幾つか記しておきたい。ドラマで特徴的だった小ネタが、映画になるとさすがに時間の都合か少なくなっている。
鈴木先生が役割を演じることについて語っているときに、クラスの中で徳永と堀の内だけが、同じような笑顔を見せる。親友なので感覚が同じという表現なのだろうか。ドラマとは微妙に席順が変わり、表情豊かな徳永が画面の中心になるように意図されたように思える。
教室の後ろの黒板に書かれた1500m走の結果が、女子は1位徳永、2位小川、3位樺山と原作と異なっている。実際に走った結果に違いないと思ったのだが、土屋のブログによるとスタッフがイメージで書いたもののようだ。
鈴木先生が徳永と堀の内に渡くんの話を聞く短いシーンでは、演技巧者の松岡がさらりと見事に演じている。
選挙テロを画策している生徒が鈴木先生の追求を無言でかわすシーンで、背景の小川、中村、入江が異変に気付くという細かい演技を見せている。
河辺のくねくねした演技はドラマよりも原作に近く、大きな見せ場はないものの楽しませてくれる。
本筋に関係ないが、投票結果発表の朝、ドラマでは恐らく出てこなかった旧ホテルエンパイアの勇姿が見えるのも嬉しい。
ヒロインの土屋は、普段の透明で柔らかい声から、かすれ、そして割れと多彩な声の変化が印象的だ。屋上での「責任がある!」の「が」は割れ崩れて最強レベルの感情表現となっていて心に迫る。
ただ土屋の演技で一番印象に残ったのは、公園で不審者扱いされるユウジに何か言って欲しいと鈴木先生を見つめる表情と、その後の安堵と信頼の表情だ。何気ない些細な出来事が一生忘れられない瞬間になるような、そんな特別な雰囲気が感じられた。