JBLスーパーサウンド

1997年にJBL輸入代理店のハーマンが配布したデモCD。以前から気になっていたので中古で入手した。
録音年代は80年前後で初期デジタルと2トラ76など。内容はジャズ、蒸気機関車、大太鼓、花火。ジャズの中にはダイレクトカッティングの同録という特別なものもある。
井上卓也氏の解説によると音の特徴は以下の通り。
「このところ、'50〜'60年代の優れた演奏と録音のアナログディスクを最新のデジタル技術により処理を施し、CD化を計った企画が多くなっているが、それらの多くが、fレンジ、Dレンジの拡張と聴感上のSN比の向上をポイントにしたCD化であるようだが、本CDでは、少々、方向を変えて、CDで、いかに、パワフルで、エネルギッシュなサウンドが楽しめるかに、チャレンジした点が最大の特徴である。」
この文章を読むと過度なコンプレッションを掛けた高い音圧のマスタリングを想像してしまう。ところが実際は正反対で、fレンジ、Dレンジを漏らさずすくい取ろうとしたような生真面目なマスタリングだ。当然音圧は高くない。またハイエンドアナログや最初期デジタルというフォーマット自体の音を意識させないのも好感が持てる。もしかすると特徴を無くすよう意図的にイコライジングしているかも知れない。
ジャズは透明度が高く伸びやかで頭打ち感がない。最新録音と比べても最高レベルの音質だろう。
蒸気機関車は鋭い立ち上がりの金属音と轟音の再生が難しい。同時に汽笛の心を鷲掴みにするような物悲しい音色も聴かれ、表現の幅の大きさに目が眩みそう。蒸気機関車がなぜ昔から愛されるオーディオソースであるかが納得できる。
大太鼓は音量を控えめにしても面白いようにミッドバスがバタつき音にならないのが恐ろしい。
デジタル録音の花火は観客のざわめきがどこまでも聞き透せそうな気がする。小さく締まった炸裂音に続く地を這う重低音の量は凄まじく、部屋に音が溢れ返ってしまう。
全体に様々な挑戦的要素が散りばめられている。全てに対応することが現実的に不可能な以上、どの要素をより重視して再生すべきか、再生者としての決断を迫られている気がする。何だか怖いディスクである。