少し鈍き刀

「よき細工は、少し鈍き刀を使ふと言ふ。妙観が刀はいたく立たず。」秀れた細工師は少し鈍い刀を使うという。当代一の仏師である妙観の刀はそれほど立たない。
徒然草第229段を時々思い出す。徒然草の文章の中でも飛び抜けて短く、それ自体が少し鈍き刀で彫琢されている。
「秀れた創造者はわざと少しだけ鈍い道具を用いる。」としてみる。さらに創造の対象が物ではなく事の場合、道具の代わりに手段、手法としてもいいかも知れない。
オーディオ(音楽再生という創造行為)にも当てはめてみる。道具の冴えは表に出ず、音楽がよく見えるのが良い。解像度、スピード感、鮮やかさなどのオーディオ的評価項目が耳を驚かすことはなく、かといって物足りないとも思わせないのが良いだろう。