プレトニョフ

Piano Sonatas 2 7 & 8

Piano Sonatas 2 7 & 8

プロコフィエフを一枚持っているのみで、ファットな音色に違和感を覚えつつも、どこか奇妙なアクの強さを感じて気になってしまっていたミハエル・プレトニョフのピアノを6月9日サントリーホールで聴いた。曲はベートーヴェンソナタ2曲とショパンのプレリュードであった。
ベートーヴェンは特に悲愴の第二楽章のくっきりした表情の付け方が個性的で若々しく生気に満ちていた。不意に盛夏の青い田の上を風が吹き抜けるといった景色が脳裏に浮かんで面白かった。
また、第三楽章冒頭付近で後期の世界がふっとかいま見えたのは初めての経験で、スリリングに感じた。
二階席三列目という影響もあるのか、音は全域で膨らんで曇った感じ。録音と同じく、低域はかなりファット。ゴンゴンいわせつつもビヨーンといった緩さが常に気になる。そして不思議なことに「はりはり」「はらはら」といった表現がしっくりくる音も同時に印象に残る。びいどろの薄く乾いて透き通った音を連想した。そしてその涼しい音と逆にびいどろの中には熱い息吹が充満しているということへも同時に思いが及ぶ。
ベートーヴェンでは一歩引いて俯瞰的な表現を取っていたように感じた。それだけに和音が濁るミスタッチがかなり気になり残念だった。
ショパンは一転してピアノが良く鳴っている、あるいは鳴るに任せているように感じた。ピアノ自体に語らせ、自分の身は隠してしまうといえばよいか。矛盾するようだが、それだけに演奏にのめり込んだ熱のある表現が聴かれた。終曲ではピアノから金属的な音、打楽器的な表現がかなり聴こえてきた。それでも例のファットな低域は相変わらずで、やはり独自の音色といえるのではないだろうか。
アンコールは4曲もあり、特に3曲目はショパンのバラード第一番と重い物。最初の音が強くホールに響き渡った時には聴衆がどよめいた。
終始ゆっくりと歩く姿が印象的だったが、静かに燃えていたのが最後には十二分に伝わった熱いコンサートだった。