東興園

小津安二郎が贔屓にした銀座の有名店。ラーメンを食べた。
4〜5人いる店員が皆おばあさん。全ての動作が異常にゆっくりでスローモーションを見ているよう。店内は正に小津の映画にあるような景色。もう何十年も変わらずそこにあるようなのだが、意外にも古臭さは感じない。明るく、さっぱりと洗われたように清潔で透き通ったように静かだ。
そして運ばれてきたラーメンはこの場に実にしっくりとくるもの。何の衒いもない普通のラーメン。目覚ましくはないものの非の打ち所もないだろう。小ぶりな丼は肉厚でほっこりとした温かみのある白さ。口に当たる縁が丸く柔らかい。このラーメンはこれからもずっと変わらずこのままあり続けるに違いない。

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最近、知人に「小津安二郎 東京グルメ案内」という本を借り、店のリストに東興園の名前がないことを意外に感じた。中を読むと東興園は既にこの世に存在しないことがわかった。それも最近ではなく80年代の終わりに店仕舞いしたらしい。
上の文章はその数年前の東興園のラーメンの印象を20年ぶりに書いたものだ。文末の感想は当時の本心であり、今も変わらずあるものと思って疑わなかった。なくなったと知り、大袈裟ではなくショックを受けた。
ブログに、唐突に20年前の情報が登場するという趣向は如何だろうか。悪趣味かも知れないが、何か反抗心を示さねばいられない気持ちになってしまった。不快に思った方はどうかご勘弁願いたい。