ドラマ「鈴木先生」

鈴木先生 完全版 DVD-BOX

鈴木先生 完全版 DVD-BOX

今年1月に公開された映画「鈴木先生」の前に、2011年春に放送された連続ドラマ「鈴木先生」を観た。映画の後にも何回か繰り返し観て、印象的なシーンや、背景に映った生徒の細かな演技を、書き留めておきたいと思った。


1話。
生徒が最初に登場するシーンは学校前の坂道。小川がひとり上ってくる。ナカに挨拶。体がぶれず、指先が伸び、歩き方がもうすでに小川だ。
ちなみに11話(映画鈴木先生)のエンドロールは対を成すように同じ坂道を生徒全員がじゃれ合いながら上ってくる。
カーベェの片方の靴紐がほどけているカットは、性格描写なのだろうが、そのことがわかるのは遠く先の6話。
夕日の教室に溢れる光。生徒指導室は日の入りが近づくにつれ、光が変化してゆく。2話リハーサル中に起こった東日本大震災のため、2話からは思い通りの照明が使えなくなってしまったそうだ。麻美の虹色光や、光に包まれているような窓際の小川などは、逆境に立ち向かうなかで生み出されたのだろうか。
鈴木先生が岬や遠野母子と別れた昇降口の背景に、ベンチでユーフォニウムを練習するナカの姿。
遠山を信じられず、感情を爆発させてしまったナカが、真実が語られた時にうつ向く細かい演技が印象に残る。


2話。
ナカが1話に続いて反省。自分のマナーの悪さを知らず、怒りにまかせて出水を強く非難。撮影時に涙が止まらなくなるほど気持ちが入ったとのこと。耳が真っ赤なのは化粧ではないだろう。
疑問なのは出水の告白に同席した小川が涙を見せないこと。原作では小川の変化のきざしとなる重要なエピソード。土屋がここで泣かないわけはないので、何らかの理由でカットされたのだろうか。


3話。
達者な役者である山口智充が、わかっていたとはいえ、ここで出番終了という贅沢さ。
「ダークヒロイン」神田の般若のような怒り。
1話でも見られた、カーベェの膝を伸ばさずひょこひょことした歩き方が完成形として印象深く提示される。
重苦しいこの回の最後に、遅刻して教室に跳び込んできたナカの弾けるような明るさによって、鈴木学級(と視聴者)が一瞬で救われる。


4話。
竹地事件の当事者のナカが「先生、騒ぎを起こしちゃってすみません」と告げる部分、映画「マリア様がみてる」での未来の台詞「皆さんお騒がせしてごめんなさい」と似ている。撮影時期に2年の隔たりがあるのだが、祐巳とナカでは全く違う人物に感じられる。原作ではツインテールだったナカがポニーテールに変わっているのは、祐実の印象を少しでも避けたかったのだろうか。


5話。
小川の迫力の目力と挙手。土屋は普段から学校であんな風に挙手をするとのこと。そしてわずか数秒だが見事すぎる空手。日舞の体捌きが活きたという。
女子達が小川さんがラブホで鈴木先生から課外授業を受けてるなどデタラメを言ってふざけてるのを、酷く苦い顔で黙って聞いている鈴木先生大ファンのタンタン。8話での爆発を知っていると納得の演技。
神田の強烈なヒールっぷりと、負けじと瞬間沸騰するナカの熱さ。
鈴木先生で最も重要な保健室のシーン。小川の「なんていうか」の台詞に無垢な恥じらいが滲む。小川役オーディションでは保健室での台詞を使ったというが、急にオーディションが決まったためか、土屋はまだその巻(4巻)まで原作を読んでいなかったそうだ。オーディションの時に土屋を見た未来の目が光ったと監督が話している。そこに居ただけで決定的だったのかも知れない。


6話。
小川の朗読中に鈴木先生がカーベェと竹地の件がクラスにどれくらい伝わっているのか考えているシーンで、朗読する小川に熱い視線を送っている藤山、横関、出水。残りの小川ファン五人衆の内、竹地は不在だが、紺野はなぜか普通。すぐ後の掃除のシーンでナカに心変わりしている素振りを見せる、その伏線なのだろうか。
山際の生徒手帳の映画の半券、プリクラや、いたずら書き(「〜のため」と印刷された部分に濁点を手書きして「のだめ」にしている)などの作り込み。
カーベェの動きを待つ岬は、ちょっとした時間に鏡を覗いて髪型を直す流石の伊達男ぶり。
ナカと紺野が一緒に竹地の家に向かうときに、ナカの親しげなボディタッチに(戸惑いと嬉しさのあまり)紺野の足が止まってしまう。
その後、カーベェと山際がもめているところに駆けつけた時に、紺野が見事にこける。これは演技なのか偶然なのか。ナカの反応も自然。
その他、演劇部の校内放送の直後にカーベェが手に持つ花のカット。生クリームの会話の後に生でやってる話、等々。
6話は尺に収まらずにクライマックスは7話の頭に続く。細やかな演出が丁寧に施されて、全話通して最も見所の多い回だろう。


7話。
掃除当番。原作者が掃除当番を世に出すために鈴木先生を描いたとまで言っているほど大切なエピソード。
一転して静謐な世界観をどう映像化するのか悩ましかったと思う。
丸山役の滝澤史は、演技力は危なっかしいものの、空気が変わるほどの圧倒的存在感。輝き出した…等の無茶な表現が浮くことなく収まってしまうのが凄い。


8話。
浴衣姿で背を伸ばしたまま立ち上がる小川の所作。連れだって歩くときに、小川が膝を開かず足を真っ直ぐにした歩き方なのに対して、ナカの、がに股ぎみの元気で子供らしい歩き方のコントラスト。
土屋は日舞の才を発揮して、凛とした小川の姿を演り過ぎなくらい鮮やかに映像化した。


9話。
小川役の土屋は、ジャージ姿になると体育会系の素が露になる感じで、私服のナカと並ぶとずいぶんと大きい。
しかし、鈴木裁判の朝、制服姿でのナカとのツーショットは、ナカに劣らないほど華奢に見えるという豹変ぶり。


10話。
鈴木裁判は、2話(原作では1話)の「いつか実りある議論のできるクラスを作る」という宣言の答えになっている。観ていてそれはわかるのだが、なぜもっとはっきり意識付けしないのかと思っていた。
DVDボックスに同梱された未公開シーンを観ると、そのことが台詞でしっかりと語られていて、わかりやすくなっていた。また、原作でももうひとつ活かしきれていなかった「折に触れ」というキーワードも、効果的に使われてすっきりする。最終回も初回と同じく延長となり、件のシーンが放送されていたら、ドラマの評価は更に高まっただろう。