鉄塔 武蔵野線

鉄塔武蔵野線 [DVD]

鉄塔武蔵野線 [DVD]

映画「鉄塔 武蔵野線」が好きでDVDを持っている。演技が魅力的なので原作には興味がなかったのだが、思い立って読んでみることにした。
復刻版は全ての鉄塔の画像が頁間に掲載されているのが良い。ただ文庫サイズなので小さくて印刷の質も悪い。思い入れたっぷりに描写された文章を読んで盛り上がっても、しょぼい絵を見てがっかりする。
趣味の世界に没入する陶酔感や永遠の瞬間が感じられる部分は映画でもとてもよく描かれているが、小説でも同様。それこそが鉄塔 武蔵野線、最大の魅力と思う。
語り口が大人で、普通使わない表現が頻出するのが気になる。その割りには子供らしい稚気や我が儘など良く描写されている。結局、難しい単語を使うのは何のためなのかわからず戸惑う。
各鉄塔のエピソードが映画とは少しずつ異なっている。例えばゴルフ場で怒られた時に蹴り倒されなかったり、ラブホテルで先生を目撃はしなかったりと、映画で肉付けされている部分が散見される。更に東京を離れたり、父が亡くなったりというように鉄塔以外の部分で大きく演出が施されていたことがわかる。小説はより求心的に鉄塔の話が綴られるのに対して、映画では主人公を取り巻く環境が丁寧に描かれ、主人公の鉄塔に対する思いを捉えやすい。
再チャレンジ部分の違いには驚かされた。小説では夢(あるいは空想)の中で終わっている。苦い現実と理想的世界との鮮やかな対比は見事だが、作者に躍らされる主人公が何だか可哀想で痛々しい。主人公をより温かい目で見られるという意味で映画版の方が好ましいと感じた。