半世紀を越える歴史がある広島ラーメンの代表店。中心部から離れた路面電車の終点から、さらに15分ほど住宅街を歩いた先にある。外観は普通の中華料理店だが、メニューは中華そばのみと正に究極。店内に一枚だけ「中華そば600円」という木の札が掛かり、何やら神々しい。にも関わらず深夜まで営業というのも凄い。店内はカウンターのみだが、背中合わせになっているので20席近くもある。
年配の女性二人が調理場に居て、若い男性が接客。女性のひとりは麺茹でに集中。浅い大鍋で麺を泳がせ、麺上げも手早い。完璧な麺茹でが見られてすっかり満足。もうひとりは丼担当で、連携は無言で目を合わせることなく行われる。動作はゆっくり確実で無駄な動きが一切ない。往年の江ぐち@三鷹を思い起こさせる。
細麺ストレート、きりりと引き締まった茹で上がり。ただし茹でが理由ではないであろう粉っぽさが特徴的。広島お好み焼きに入る「そば」と同じだろうか。スープは豚骨の獣臭さを残して野趣がある。そして甘さが印象的。素材由来の穏やかな甘味というより、調味料の表面的なものだろうか。ただし、この味に懐かしさを感じる人は多いと思われる。
具は極薄で豚の味の濃い煮豚が数枚に、もやしとネギ。もやしは関東で一般的なものより細く、青い味が濃い。お好み焼きにも使われていたので、広島では一般的なのだろう。
麺茹での女性が手の空いたときに、ほとんど無意識のように茹でる前のもやしの下処理をしているのが見えた。研ぎ澄まされた技術だけでなく、そんな不断の手間が丼の格を上げているに違いない。